水木しげる先生の自伝エッセイが、金言と教訓に溢れている件

水木しげる先生といえば、言わずと知れた大御所マンガ家で、昨年惜しまれつつもお亡くなりになってしまいました。最近、ふと書店で水木先生の自伝エッセイ見つけたので読んでみたところ、めちゃくちゃ金言と教訓が溢れすぎており、止まらなくなってしまったんですね。

九死に一生を得まくる水木先生

水木先生といえば、壮絶な戦争体験をくぐり抜けたことで有名ですが、改めてこのエッセイを見ると「よくご無事で」というくらい九死に一生を得ています。

簡単にその模様を説明すると…

・南方の激戦地「ラバウル」に行かされ、
・ボロボロの船で出航し、敵の魚雷が迫って来たがスレスレで逸れ、
・上陸後、見張りをしていた時、望遠鏡で熱帯の鳥に見とれている間に一緒にいた仲間が襲撃されたけれど、自分だけ助かり、
・助かったものの、仲間は全員死んでしまったので数日かけて味方の陣地まで命を狙われながら帰り、
・帰ったと思ったらマラリヤにかかり、42度の高熱が出て、
・やっと元気になったと思ったら爆撃により左手を失い、麻酔なしで手術する

さらに色々あるのですが、これだけ見ても何回命を落としていても不思議じゃないですよね。しかも、常に不幸の中にもラッキーが起こっているのです。例えば仲間が襲撃された時、水木先生は朝方の見張り当番なので仲間を起こしに行こうとしてたいのですが、望遠鏡で熱帯の鳥に見とれていたため、起こしに行くのが遅れたのです。敵軍は水木先生が戻るのを待って一網打尽にしようとしていたのですが、水木先生がなかなか自分のテントに戻らなかったので、命が助かりました。
さらに、爆撃により左手を失ったものの、爆撃を受けた時にいたのが療養所だったため、近くの衛生兵が即座に止血をしたおかげで助かりました。このあたりを振り返り、水木先生はこのように語っています。

人間が生きているということには、自分の力以外にどんなものの力が作用しているか知れない。自分の意志以外の様々な要素が自分を生かしているとしか考えられないことを軍隊生活では如実に体験した。

どんな環境にも幸福を見つける

ラバウルでは左手を失ったため作業要員となるのですが、現地の民族ととても仲良くなります。水木先生は現地語でコミュニケーションを取りながら「パウロ」という名前まで与えられて、民族のお祭りにまで参加するようになるのです。

土人たちの生活ぶりは、僕が子供の頃からあこがれていた「遊びと食うことが一致している」生活のようで、軍隊で苦しい目にあっている僕にとっては全く天国なのだ。僕は、部落へ遊びに行くたびに観察していたのだが、彼らは一日に三時間くらいしか働かない。熱帯の自然は、それぐらいの労働で十分に人間を食べさせてくれる。熱帯だから、衣料も住居も簡単でいい。人間が自然に対して闘いを挑むのではなく、自然が人間を生かしてくれるのだ。

戦地という過酷な状況で左手を失いながらも現地の民族の人たちとの交流を楽しみ、さらに自然にも感謝出来るというその心持ちがすごい。最終的に水木先生は現地の民族と一緒に暮らそうと、軍隊を現地除隊しようとするのですが、懇意にしていた軍医の先生に留められて帰国することなります。

状況を俯瞰して見切る視点

日本に帰ってきてからも、なぜか魚屋をやったりアパートを経営(このときのアパートの名前、水木荘がそのままペンネームになったそう)した後に、紙芝居を描くようになります。紙芝居屋は労力の割に儲からず貧困が続くのですが、そのような中でも市場を冷静に判断しています。

僕は、紙芝居は、本当にアカンようになりかけているのだと思った。子供の頃に、日露戦争の広瀬中佐の映画を見たことがあるが、沈みゆく船では、ある時機を逸すると、もはや逃げることもできず、まきぞえをくってしまう。僕は、今こそが、紙芝居丸の沈没の時だと思った。逃げなければならぬ、遅れるとアブナイ。

その後、貸本マンガの世界に活動の場を移しますが、相変わらず貧乏からは抜け出せず、貸本マンガも紙芝居と同様に衰退していきます。そんな中、うっすら知り合いだった貸本マンガ家が餓死してしまったという知らせを受けるのです。

そんなことが、と、貸本マンガ世界を知らない普通の人は思うかもしれない。しかし、本当に、こういうことがあり得る世界だったのだ。貸本マンガの世界には、餓死か栄光かの二つに一つしかなかった。栄光とは、雑誌マンガに移行して生き残ることである。

水木先生は貸本マンガにも見切りをつけて、雑誌マンガに移行して行きます。やがて代表作の「ゲゲゲの鬼太郎」で大ヒットを飛ばすのですが、この雑誌マンガに移行した時の状況判断がすごい。雑誌マンガの編集者が執筆の依頼に来たのにも関わらず、断ってしまいます。

その頃「少年マガジン」の編集者がやってきて、宇宙ものを描いてくれという。しかし、僕は宇宙ものは得意ではない。貸本マンガの連中で、雑誌から注文がきたのはいいが、不得手な分野なのに引き受けて、後で苦労した人が何人もいた。貸本マンガに引き返そうにも引き返せず、不得手な分野は当たらない、というわけだ。そういう例を知っていたから、僕は、この話は断った。

貧困の中で雑誌マンガに移行することを渇望していたら、例え苦手分野でも引き受けてしまうのが人の弱いところだと思います。しかし、水木先生はこれを冷静に断って、その後同じ編集者が「方針が代わったので好きな物を連載して良い」というオファーを持って来てから自分が得意なジャンルのマンガを連載するようになるのです。
こういう状況や周りの意見に流されない水木先生のスタンスは、この自伝の各所に現れていて、戦争の機運が高まって周りが皆「玉砕だ」と叫んでいる中でも、「先生、戦争も満州まででエエんじゃないですか」などと発言して非国民扱いを受けたと言います。

「ゲゲゲの鬼太郎」や「悪魔くん」は改善の産物!?

代表作「ゲゲゲの鬼太郎」は「墓場の鬼太郎」という水木しげる先生の紙芝居が元になっています。これは完全に水木先生のオリジナルではなく、「ハカバキタロー」というオリジナルがあり、それを改善した物だと言うのです。

ただ怪奇なだけでは、いま一つ人気に熱狂さが出ない。ユーモアとアクションが欲しいと思っていたところ、三歳になった兄貴の子供のしぐさがユーモラスであることに気づいた。顔に髪がかかったりしていておもしろい。そこで、その子をモデルにして、怪奇ではあってもグロテスクにならないようにしたら、人気がどんどん出るようになった。

この本を読んでいると、水木先生の作品やキャラクターには下地になる物や人がいて、それに先生なりの工夫や改善を加えて作品に仕上げのだということがよく分かります。同じく先生の代表作である「悪魔くん」の誕生も、実は下地になった文学作品があることが明かされています。

セリグマンの「魔法」(平凡社)を読んでいると、中に、ものすごくたくさんの魔法の話が出て来る。ああ、昔から、人間は、幸福になるために、こんなにたくさんの魔法を考えていたのだなと思い、この本とゲーテの「ファウスト」をヒントに、ノート二冊分のストーリーを作って「悪魔くん」を開始した。

ちなみにかの有名なキャラクター、ねずみ男にも実在のモデルがいるという話が明かされるのですが、それは是非本を読んでみてください。

ということで、水木しげる先生の自伝エッセイには、教訓と金言が溢れまくっているのですが、本のタイトルは「ねぼけ人生」。客観的に見ると戦争体験、その後の極貧の生活、40歳前後になってから急に売れっ子マンガ家になるという激動の人生に見えるのですが、エッセイを見ると、水木先生はどこかそれを俯瞰しながらうまく「やりすごしている」ような印象を受けます。
というのは、おそらく水木先生が人生について、自分ではどうにもならない不確定要素や運を含んで「生かされている」ことを飲み込んでいるからなのではないでしょうか。
貸本漫画家だった時代、「墓場鬼太郎」を掲載した短編マンガ集「妖奇伝」がなくなった時も、その運命の力というのが働いたそうです。

仕事もなくモンモンとしていると、兎月書房からハガキが来た。出向いてみると、熱心な読者が長文の手紙をよこし、「妖奇伝」はなくなっても「鬼太郎」だけは傑作だから何とか続けてくれ、と強く訴えてきたという。兎月のオヤジはその熱意にうたれ、「妖奇伝」の後釜として「墓場鬼太郎」という怪奇物の短編集を出すことにしたと言うのだ。短編集の中心になるのは、もちろん、僕の「墓場鬼太郎」である。人間の運命というものは、本当にさまざまな回路から成り立っているらしい。この熱心な読者の手紙によって、鬼太郎はよみがえることになり、後の僕の代表作の一つともなるのである。

ということで、久しぶりに金言と教訓に溢れたエッセイでした。ここに書いてあるのはほんの一部なので、是非エッセイを読んでみてください。南方ラバウルで出会った現地住民との交流も後日談があります。
※引用出典は全て「ねぼけ人生」水木しげる著より



▼ちなみにニコニコ動画のゲーム実況で「水木しげる」先生が監修・出演しているエピソードがあります。これもまた深い。
伝説すぎるクソゲー『四八(仮)』を実況プレイ【part37】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm26734568

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