日別アーカイブ: 2016年2月24日

1982年の漫画「翔んで埼玉」が30万部超えした理由

1982年の漫画をリパッケージして販売したら30万部超えのヒットに

コンビニで魔夜峰央の「翔んで埼玉」を立ち読みして思わず買っちゃったんですね。「日曜日も夜更かし」でも紹介されて30万部を越えたそうです。しかし、最近描かれた漫画というわけでもなくて、初出典は1982年になっています。
さいたま

そもそも魔夜峰央先生は「パタリロ!」で知られる漫画家ですが、「パタリロ!」がアニメでやっていたのもかなり昔の話なので「知る人ぞ知る」という漫画家さんだったわけです。かくいう私は「パタリロ!」を飛ばし飛ばし数十巻は読んでおり、それ以外の魔夜峰央作品も読んでいるので「翔んで埼玉」を読むと、いつもの魔夜峰央調の漫画という印象を受けます。なぜ時を経て30万部も急に売れだしたのでしょうか。

実は白泉社の「花とゆめ」に掲載されていたこのマンガを、宝島社が「このマンガがすごい!」シリーズの一巻として、「埼玉ディスマンガ」としてリパッケージして売り出したのです。
このように、やってる方にとっては、いつもとやってることは変わらないけれど、パッケージングし直して新しい視点を加えると爆発するという現象がけっこうある気がします。
以前養老孟司さんの「バカの壁」という新書が400万部を越える大ヒットしましたが、インタビューか何かで養老さんが「前からずっと言い続けていることを、ここでも言っているだけなのになんであんなにヒットするんだろう」的なことを言っていました。

ヒットの条件は、井戸の中から取り出すこと

この、ずっと同じことやり続けてるんだけど、急にヒットするケースの条件として「生息している井戸の中から別の場所に出す。」ということが挙げられます。例えば魔夜峰央先生のマンガは「花とゆめ」読者でないと読めないですが、この雑誌はコアなマンガファンが読む印象です。この花とゆめという名の井戸から「翔んで埼玉」を取り出して、パステルカラーで目立たせてコンビニや書店の棚に陳列したことによって、外界に送り出したということが言えると思います。
さらに例を挙げると、ネットではよく面白い画像まとめコンテンツが出回りますが、歴史をたどると2ちゃんねるで流通している写真がほとんどなので、2ちゃんねらーにっとては既出の写真群だったりします。しかし、まとめブログやTwitterなどの拡散ツールによって、2ちゃんねるでは既出だった面白画像がパッケージングし直された結果、今まで2ちゃんねるという井戸を覗いたことがなかった人たちにとって新鮮に見えるのです。

リパッケージとともに重要なネーミング

そして、この「井戸の中から外界に出す」という作業とともに、リパッケージして新しいネーミングやコピーを与えるというのも重要です。「花とゆめ」という井戸の中にいる限りは「翔んで埼玉」は「魔夜峰央のいつものギャグマンガ」ですが、リパッケージされた「翔んで埼玉」は「埼玉ディスマンガ」というコピーなのです。井戸の外に出してもマス向けに通用するネーミングやコピーを付けることによって、ブレイクが生まれると言えましょう。

そして、この井戸を掘り起こすのが好きな人といえば、みうらじゅんさんです。先日みうらさんが書いた「「ない仕事」の作り方」という本を読んでとても面白かったのですが、みうらさんはつぶさに「井戸」の存在を検知して、それを一定期間寝かせた後、世に解き放っているのです。この本を読むと井戸の掘り起こし方がたくさん書かれているのですが、ネーミングの重要さを語っている章があります。今もブームが続いている「ゆるキャラ」やすっかり常用語として定着した「マイブーム」もみうらさんが作った造語だそうなのですが、「ゆるキャラ」という名前を地方のマスコットキャラクターたちに与えることで、今まで定義されていなかった現象が定義されて、イキイキとしてくるのです。この本の中でネーミングの重要性についてもこのように語っています。

私が名づけたブームのほとんどの名称は、水と油、もしくは全く関係がないものを結びつけるようにしています。「マイブーム」もそうだということは前述しました。A+B=ABでなく、A+B=Cになるようにするのです。そしてAかBかのどちらかは、もう一方を打ち消すようなネガティブなものにします。この「ゆるキャラ」は、その最たる例と言えるでしょう。
出典:『「ない仕事」の作り方』

ちなみにこのネーミングの付け方の考え方は「妖怪ウォッチ」の生みの親の方も似たようなことを言っており、やはり突き詰めると同じ結論になるのかなと思います。

ということで、世の中にはまだきっとたくさん眠っている井戸があるんだろうなあと思いました。ちなみにみうらじゅんさんが狙っているターゲットは「シンス」で(よくレストランとかにあるSince 1976 みたいな表記)、イベントなどでこの言葉を出して反応をちょいちょい見ているそうです。個人的にはシンスがものすごくツボに来ています。