日別アーカイブ: 2013年12月17日

コンサルタント、田所洋司の憂鬱(後編)

たどころ2前回のあらすじ
文具メーカー△△社の山下太郎は、自社の文具を扱うECサイトの売上向上のため、他社ECを調査し、伸びているサービスが導入していた「ポイント還元」と「キュレーションコマース」を導入することにした。しかし、会議の場でコンサルタントの田所洋司が突然立ち上がり、否定しはじめた・・・。

田所洋司は席を立つと、ゆっくりと山下のところへ向かい、睨みつける山下の横を通り過ぎてホワイトボードの前に立った。田所は、会議に参加した10名のメンバーの目をひとりひとり見つめると、全員に話しかけるような口調で話し始めた。

「山下室長、まずポイントを還元するという手法ですが、山下室長はポイントを貯めるためにECを使ったことは?」
「ぐぬぬ。」
山下室長は、原哲夫の漫画に出て来る悪役のような声を出した。
「むろん、私は使ったことがあります。」
戦略室主任の河口は、山下をフォローするように言った。
「なるほど。河口主任がお使いのサイトは何ですか?」
「楽天です。」
「楽天で何をお買いに?」
「色々ですよ・・・。飲料水や、洋服、靴も買うことがあります。」
「なるほど」
田所は、ゆっくり頷いた。
「河口主任は、生活必需品から洋服まで多ジャンルに渡る様々な品物を楽天で買っている。理由の一つは楽天ポイントを貯めたいから。それで間違いないですね。」
「ああ、みんなだって楽天ポイントは貯めたいだろう。」
河口は吐き捨てるように言った。田所は気にせず続ける。
「なぜポイントを貯めたいかと言えば、自分が買いたいと思う物がポイントで買えるからです。なぜポイントが貯まるかと言えば、購入する回数が多いからです。つまり、楽天は日常で使う消費財からアパレルまで、ありとあらゆるジャンルの商材を扱う総合モールです。そこに買いたいと思う物があるからこそ、そこで使えるポイントを貯めるのです。楽天が消費財を扱っているからこそ、購入回数が多くなりポイントが貯まるのです。この循環で顧客をサイトに繋ぎとめていると言っていいでしょう。しかし」
田所は、河口の方へと向き直った。
「御社のサイトは文具専門サイトですね。人が文具を購入する回数は年に何回でしょうか。ポイントが貯まるのに年単位かかってしまったら、もはやそのサイトでポイントを貯めるモチベーションは失せるでしょう。ポイント還元は、顧客が高頻度で買い物をするというステップがなければ、良い循環は生まれないのです。

「しぇー。」
河口は、赤塚不二夫の漫画に登場する出っ歯のような声を出した。田所は気にせずに続けた。

「それからキュレーションコマースですが、キュレーターが商品を選りすぐってパッケージングするコマースというのは、確かにキュレーターに影響を受ける商材だったら有効でしょう。例えば、カリスマモデルがファッションアイテムをキュレーションする、著名人が書籍をキュレーションするといった具合にです。しかし、繰り返しますが、御社は文具メーカーです。いったい文具のキュレーターとは、誰なんですか。文具のスペシャリストがシャープペンシルと消しゴムをセットで進めたら、顧客が買うというシチュエーションが想像できるのですか!?」

「あ、あひぃ・・」
山下と河口は、「この店の焼売は本当の焼売じゃない」と海原雄山に指摘された店主のような声を出した。

田所は、「とりあえず私からは、以上です。」
田所はそうつぶやくと、冷静に席へ着席した。

<おわり>

ということで、田所に糾弾されてしまった山下室長と河口主任ですが、この2人みたいなこと言う人って本当に多いんですよ。次回エントリでは、この2人の何が悪かったかを体系的に解説していきます。ちなみにこれを書こうと思ったきっかけは、「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」を読んで感銘を受けたことです。