日別アーカイブ: 2013年12月16日

コンサルタント、田所洋司の憂鬱(前編)

たどころ田所洋司は、カップホルダーのフチをひとさし指の爪で弾いていた。カツカツ音がするなと思ったら、自らの爪で黒いプラスチック製のカップホルダーを弾いていることに気づいたのだ。ホルダーの中にセットされたカップには、すっかり冷めたコーヒーが入っている。田所は小さくため息をついたが、目の前にいる事業開発部戦略室室長の山下太郎は、会議室の机に並んだ10名の社員たちに淡々と話続けている。

「来期でさらに10億の売上を積まないといけない。他社のECで伸びているところは・・・」

「〇〇社です。」

「そうだった、〇〇社や××社が非常に伸びている。これらに共通の勝ちパターンはなんなのか。それを研究して、まとめてもらったのが、先ほど河口くんにプレゼンしてもらった通りだ。これらに共通する法則は何か、河口くん、もう一度話してみてくれ。」

戦略室主任河口は、ゆっくりと立ち上がるとホワイトボードの前まで戻ってきた。先ほど使ったプレゼン用のスライドを数枚戻して、まとめのページを投射する。

「先ほどもご説明させて頂きましたが、まずはポイント還元による顧客囲い込みです。ポイントシステムを導入して、還元率の引き上げを行うことにより、顧客を弊社のコマースに固定化します。
それから、先ほどの2社はキュレーションコマースを採用しています。発言力の高いインフルエンサーに、お気に入りの商品を集めてサイト上で陳列してもらえれば、購買率が飛躍的に高まります。」

「なるほど、ドキドキ、ワクワク感の演出だな。」
山下はもっともらしく頷きながら、口をはさんだ。

「これが、私たちが調査をした結果導き出されたベストプラクティスです。ポイントによる顧客囲い込みと、インフルエンサーによるキュレーションコマース。この2点を軸に現状のECサイトを一新します。」

河口はもっともらしく頷くと、席に戻った。山下は、会議室に着席した10名の社員に視線を向ける。
「何か、質問があるかね?」

田所洋司は、プラスチック製のカップを脇に寄せると、スっと立ち上がった。
「すみません、2点ほど質問があるのですが」

山下は、田所に視線を投げた。どうせ社長の友達のコンサルもどきが、金めあてにプロジェクトに転がり込んできた。山下の目がそう語っている。田所は、気にせずにつづけた。

「一点目は、現状御社のECコマースサイトは、御社で扱われている文具のみでしょうか。」
「そうだが。」
「御社の文具は、自社で商品開発を手掛けられていると伺いましたが、正直あまり特徴があるようには見えませんね。」
山下は、田所を睨みつけた。
「確かに特徴はない。しかし、うちの売れ筋商品「何の変哲もない消しゴム」などは、何の変哲もないながらも、よく消えると30万個のヒット商品だ。」
「もう一点お伺いしたいのですが、キュレーションコマースをされると言いましたが、現在扱っている自社製品から扱い点数を拡張する予定は?」
山下は、腕を組んでぶぜんとした表情で答えた。
「ない。」
田所は、腕を組んだまましばし考えた。
「少々、お話させてよろしいでしょうか?」
そして、山下の答えを待たずに田所は話はじめた。

「あなた方が今しがた説明したこの戦略は破綻している!
・・・いや、こんなの戦略とは呼べない!」

後半に続く
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ということで、急に小芝居が始まってビックリしたと思うのですが、この会議の流れの何が間違っているか、解りましたでしょうか?だいたい、解ってない人ってこの例の山下と河口みたいになります。
最近読んだ「ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件」に感銘を受けて書いてみました。