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任天堂が、市場に欠けているピースを見つけるのが上手い理由

新規の事業やサービス、プロダクトを作る際に重要なのは、今起こっている現象において「欠けているピース」を見つけることです。例えば、どこかの街で八百屋さんを始めようと思ったとします。その街での野菜の消費量のデータを見たところ、とびぬけて大根の消費量が高かったとしましょう。すると、たいていは大根が売れているようだから、たくさん大根を仕入れよう、という結果になりますが「欠けているピース」を探すのがうまい人は「大根がたくさん売れているのは、単に産地が近くて安いという理由だから、その他の野菜も仕入れルートを開拓して値段を下げれば大根に飽きている人たちに、たくさん売れるはず」と、目の前に見えている現象に欠けていることをさぐろうとします。

任天堂は常にゲーム機においてコレをやってきたと思うのです。ニンテンドーWiiは、プレイステーションなどのゲーム機がどんどん高機能化し、マニアックなゲームユーザー向けになっている現象を見て、お母さんや子供たちも一緒に遊べる家庭用ゲーム機のピースが欠けていることに気づいて投入されたゲーム機です。

その後、スマートフォンの普及を受けてソーシャルゲーム全盛となり、もうコンソール機の需要はなくなるのではないかと言われている中で「本当のゲーム好きが遊べるハードウェアがない」という欠けているピースに対して発表したのが「ニンテンドーSwitch」なのだと思います。

任天堂以外にも、急成長を遂げる会社というのはこの「欠けているピース」を探すことに長けています。「欠けているピース」は人々の直感に反する(家庭用ゲーム機が売れるわけがない、ソーシャルゲーム全盛の時代にハードウェアなど買わない)ため、大企業が資本を投下して入りにくいからです。
例えばLINEもスマートフォン時代になってからメールというソリューションが遅れていることに気づいた会社ですし(正確に言うと先行のカカオトークの方がより先にそれに気づいていたわけですが、その市場が爆発的に成長すると確信して資本を投下し続ける決定が出来たのはLINEですね)、同じくメルカリもスマートフォン時代になってからオークションではなくて簡単にモノのやり取りをしたいと気づいた会社ですね(これもLINEと同じくすでにフリマアプリの競合は数社存在していましたが、市場の爆発的な伸びを最も確信していたのはメルカリでしょう。)

このように、急成長を遂げるためには欠けているピースを見つける力が非常に重要です。ペイパル創業者の一人であるピーターティールが著書の「ZERO TO ONE」にて「競争するな、独占せよ。」「賛成する人がほとんどいない、大切な真実はなんだろう?」と問いかけているのは、まさにこのことだと思います。

このピースを見つけることが上手い条件のひとつとして「物事を構造化してとらえられる体系的な知見」が挙げられますが、加えて最も強いのは自分自身が顧客であるという当事者の場合です。
例えばアメリカで急成長と遂げたチャットサービス「スナップチャット」は、投稿から一定期間で投稿した写真やテキストが消えるというサービスでした。チャットサービスがすでに爆発的に流行っているという現実だけ見ると、もはや参入余地がないように見えますが、それを使っていた当事者の若者にとっては「バカみたいな写真とか、うんこって送ったらずっと履歴が残るのは嫌だなあ」というニーズがあったわけです。

そして、任天堂も同じくこの当事者である顧客の視点を持ち続けていることが非常に強いことなのであろうと思います。それゆえにハードウェアにおいて時折失敗をしつつも、当事者視点がブレないため、その時において欠けているピースに気づき、そこのハマるプロダクトを提供し続けることが出来るのです。

それは創業者である山内溥氏の「任天堂は娯楽の会社で、娯楽以外はしないほうがいい。」という言葉にも現れています。徹底的に娯楽を扱い、娯楽についての当事者意識を持っているからこそ、娯楽を求める顧客にとって大切な価値を気づけるのでしょう。

これは「儲かっている市場に投資して、儲かるのであればどんな事業であってもやる」という昨今の新興企業とは異なるフィソロジーです。企業が長期的に存続し続けるためには、ある市場において企業文化レベルで当事者になることが出来るフィソロジーが重要なのかもしれません。

マクドナルド不振の本当の理由

マクドナルドの不振の引き金を引いたのは、コンビニコーヒー?

マクドナルドの2015年1~9月期連結決算が、292億円の赤字(前年同期75億円の赤字)に達したそうです。日本で一番大きかった原宿表参道店の閉店も決まり、ネット界隈では「いよいよか」といった感じのコメントが見られます。

マクドナルドが2004年に原田泳幸氏が社長に就任してから8年もの間、増収増益を達成していたものの、それ以降は減収減益に転じた要因を過去にブログで分析したことがありました。

なぜ増収増益から減収減益に転じたのか、以前のエントリで分析したことを簡単にまとめると以下2点になります。

1 コンビニコーヒーが台頭してきたせい(⇒で、来店者数が少なくなった)
2 高価格商品が売れなくなったせい(⇒で、顧客単価が減少した)

これが2大要因になるのですが、原田体制になったマクドナルドがまずしたことは、低価格帯の商品で来店を促進することでした。これを100円マックで実施していたのですが、プレミアムローストコーヒーが導入された2008年以降はコーヒーが来店促進の主役となります。(7年くらい前を思い出すと、お昼前後、みなこぞってマックにコーヒーを買いに行っていませんでしたか?)
しかし、2012年前後にコンビニ各社がコーヒーに力を入れ始めたため差別化が出来なくなり、マクドナルドの2013年の来店者数はガクッと減っています。さらに、コーヒーで集客していたお客さんに高価格帯の商品を提供して利益を出していたのですが、それらが売れなくなった結果、顧客単価が減少して利益が出ない状態になるというダブルパンチとなったのです。(高価格帯の商品を購入させるためにメニューの撤去を行う等の迷走もありました。)

これがマクドナルドが減収減益となり、さらに赤字に転じた直接の原因だと思うのですが、マクロの視点で見ると大きな一つの背景があると思うのです。

マクドナルドとモスバーガーの定義は異なる

その背景とは「ハンバーガーというワンコンセプトのお店が、巨大外食チェーンとして存在することが難しくなった」ということかと思います。よくモスバーガーは頑張っているのにマクドナルドは…という意見がネットで見られますが、そもそも売上規模がものすごく違います。モスバーガーの売上は年間650億円前後ですが、マクドナルドは売上が落ちたとはいっても4千4百億円もあります。その差、7倍近くです。さらに、年間の来店者数は2011年時点の数字ですが、モスバーガー1.06億人に対して、マクドナルドは9.25億人です。
モスバーガーは「ハンバーガー好きな人が、たまにハンバーガーを食べに行くところ」ですが、マクドナルドは「日本人が年に何回かは定常的に食事をとる飲食店」ということで、定義が違うのです。

さらに、外食チェーンの大手というと牛丼チェーン「すき家」を展開するゼンショーが思い浮かびますが、ゼンショーの牛丼カテゴリは2015年3月期の売上が1,735億円ですから、2014年の売上が4,463億円であったマクドナルドは2.5倍も売上規模が大きいのです。インフォグラフィックで売上を比較するとこのように開きがあります。
比較 グラフ

ということで、マクドナルドが凋落した最大の要因は「ハンバーガーというワンコンセプトによる、売上5,000億円規模の外食チェーンの存在が、食の嗜好の多様化により難しくなった」という背景があるのではないかと思います。「すき家」や「モスバーガー」は商品開発などに力を入れて、客単価の向上などに努めているようですが、それはマクドナルドよりも数倍売上規模が小さいからこそ効く施策なのです。

今後のマクドナルドについて考えると、上記の理由から売上の減少は下げ止まらないことが予測されます。現在、店舗が続々閉店しているようですが、売上規模を大幅に落として、他の外食チェーンのように顧客の嗜好に合わせた商品を開発して利益を出すという流れになるかもしれません。(しかし、マクドナルドは商品開発においてグローバルの規制が激しいという話も聞くので、どうなんだろうとも思いますが。)

マクドナルドもホンダもほぼ日も!?偶然生まれたビジネスモデル

マクドナルドの隆盛は、偶然の産物だった!?

マクドナルドが2000年代半ばからどのように栄光を極めて、そして凋落していったかというブログを書いたのですが、原田泳幸社長が就任して以降のマクドナルドは、原田マジックなど言われて素晴らしい戦略だと賞賛されていました。

ブログではマクドナルドの売上と利益の推移をグラフで見ながら、要因を探っていたのですが、来客数のアップからの単価アップという流れるようにきれいな戦略になっています。

1 100マックの低価格戦略でお客を取り戻した!(来客数アップ)
2 えびフィレオ大ヒットに続く高価格帯商品も大当たり(単価アップ)

しかし、これは元々そういう戦略を考えていたわけじゃなくて、えびフィレオのヒットは偶然だったらしいんですね。(そもそもえびフィレオを手掛けたのは、カサノバ氏だそう)

「今だから話せますが、100円マックを始めた頃は、そんなフェーズ1・2・3なんて戦略を詳細にはつくっていませんでした。客数は上がるが、絶対客単価が落ちるので、なんとか少しずつ収益を戻すということを段階的にせざるを得ないなと思ったぐらいです。具体的に何をいつ発売するかは決まっていなかったのです。戦略がないと言ったら、それこそ記者から叩かれますからね。」
原田泳幸の実践経営論「大きく、しぶとく、考え抜く。」より

ホンダの小型バイクが北米市場を席巻したのはショッピングセンターの担当者のおかげ?

MBAの教科書に載るような成功が、実は戦略ではなくて偶然だったというのは他にもあります。先日「君に友達はいらない」を読んでいたら、ホンダがかつて小型バイクでアメリカ市場を席巻したという話題についてこう書かれていました。

「それまでアメリカのバイク市場は、ハーレーダビッドソンが独占していた。同社のバイクは趣味性が高く、オートバイを愛する男たちに熱烈な支持を受けていた。その市場に乗り込むにあたり、ホンダは同じ土俵で闘うのではなくて、”気軽に乗れる機能性の高い実用的な乗り物”として自社のバイクを位置づけることにした。そのリポジショニング戦略がうまく行って、ハーレーほかのアメリカンバイクのメーカーの市場を大幅に奪ったのである」
(「君に友達はいらない」講談社刊より)

しかし、同書によるとリチャード・パスカルさんというスタンフォード大学の教授がホンダの北米進出を手掛けた人物に話を聞いたところ、戦略なんて全くなかったそうなのです。当時は、ハーレーダビッドソンに習って大型バイクを売り込んでいたものの全く売れず、ショッピングセンターの担当者が、たまたまホンダの営業担当者が乗っていた「スーパーカブ」を見て「そっちの小さいのだったら売ってもいいよ」というのが始まりだったそう。

物販サイトとなった「ほぼ日刊イトイ新聞」のはじまり

さらに、月間約139万人の訪問者数を誇る「ほぼ日刊イトイ新聞」ですが、直近1年の売上が30億円(決算期変更による参考値)を超えており、ものすごい物販サイトとなっています。しかし、同社CFOの篠田真貴子さんによると、物販をし始めたのは偶然だったそうです。

そうした中、商品という形で売り上げを立てたのは、偶然の産物でした。最初の商品は1999年秋に販売したTシャツでした。当時、事務所スタッフが少人数だったので、大学生のサークルがユニフォームを作るような感覚でお揃いのTシャツを作ろうという企画が持ち上がったとき、メンバーの一人が「読者にも売ったら喜ばれるのでは」というので、Webサイトで通信販売してみました。すると、3000枚を超える申し込みがあり、「自分たちも物販でやっていけるのでは」と思うきっかけになりました。その後、オリジナルのハラマキ、永久かみぶくろ、手帳と、1つずつ商品を開発しました。

http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1308/21/news023.html

漫然と待っているだけでは、良い偶然は訪れない

ということで、マクドナルド、ホンダ、ほぼ日刊イトイ新聞と、大成功を納めているビジネスでも、最初からきれいに戦略を描いたわけではなく、やり続けることで偶然の幸運に巡り会うことも多いようです。
しかし、一方でそのチャンスをただ漫然と待っていたわけではなく「天は自ら助くる者を助く」ということわざの通り、フィソロジー(哲学)を持って地道に準備をしています。

マクドナルドの例でいえば、起爆剤となった「えびフィレイオ」が誕生したのは偶然ですが、原田社長は就任後に「メイド・フォー・ユー」というスローガンのもと、キッチンの大改革を行なっており、これがなければ「えびフィレイオ」ほかに続く高価格帯の商品は生まれませんでした。ホンダの例も、そもそもホンダが小型のバイクを開発できる技術力と実績があったからこそ、ひょんなきっかけで一気に小型バイク市場が広まることになったのです。
さらにほぼ日刊イトイ新聞も、物販が順調なのはメディアに共感するファンが一定量存在するからです。サイトが始まった当初から「自分たちがおもしろいと思うことをする」という信念のもと、1度も広告を入れたことはないと言い、様々な運用ポリシーを貫いています。

このように、ある種の事業には、きれいに描いた戦略ではなくて、自分たちのフィソロジーに基づいて着々と準備をして「いつか訪れる偶然を待つ」という行為が求められるのかもしれません。

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マクドナルドはなぜ減収減益に転じた?【2】〜成功ロジックは何処で崩れたのか〜

2013年純利益が前年の半分以下。原因は来店者数?単価減少?

前回のエントリでは、2004年の原田氏就任後、2010年に営業利益が約4倍の281億8000万になるまでを振り返った。今回はその後、好調だったマクドナルドの業績に暗雲が立ちこめ、2012年から2年連続の減収減益に転じた理由を振り返ってみたい。

まずは売上高の推移を見てみよう。

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マクドナルドHPより

グラフは直営店とフランチャイズ店を合計した全店売上高だが、2011年以降は前年割れが続いており、特に2013年は前年より約250億円も減少している。
純利益のグラフを見ると2012年に128億円もあった純利益が2013年には51億円と半分以下になっている。ざっと決算書を見たところ、売上げのヘコみがそのまま利益にまで反映されているものと思われる。
(ちなみに2010年の純利益も約78億と減少しているが、これは大規模に不採算店舗を閉鎖するなどして特別損失を計上しているためである。)

売上げが減少するということは、来店数が減っているか、顧客単価が下がっているかどちらかである。まず、2011年の来店数を見てみると9.28億人と、前年2010年の9.38億人から減少していることが分かる。

そして、2012年はグラフがないので、月次セールスリポートで前年同月比との比較を参照した。すると、2012年は12ヶ月中3ヶ月で来店数が前年比割れをしているが、2011年より回復していることが分かる。しかし、単価は12ヶ月中11ヶ月で前年比割れ。顧客単価が大幅に下落している。

続く2013年は12ヶ月中11ヶ月で来店数が前年比割れ。顧客単価は12ヶ月中4ヶ月が前年比割れだが、そもそも2012年の顧客単価がかなりの割合で下がっているので、ベースとして顧客単価も減少傾向にあるといえる。まとめると以下のようになる。

●2011年
来店数は減少。
顧客単価は不明。

●2012年
来店数は前年より回復したものの、前年のベースが低いので低調傾向。
顧客単価は大幅に下落。

●2013年
来店数は大幅に前年割れ。
顧客単価の低調傾向が続く。

ターニングポイントは2011年にあった?

マクドナルドの業績がみるからに悪化した2012年の下期以降を分析する記事がよく見られるが、ターニングポイントは2011年にあると思われる。まず、来店者数減少の要因だが、原田氏はインタビューで何度か、中食の需要が増えているのが要因だと語っている。

「食生活には「外食」と、デリバリー(宅配)やテイクアウト(持ち帰り)、コンビニのお弁当などの「中食」、家庭で調理する「内食」があります。震災後、中食にシフトしているんです。エネルギー節減で家での調理を控えるため内食からも中食にシフトしています。そのためコンビニやスーパーが調理済みの商品を増やしていて、その分、外食が減っています。」
2012年時のインタビューより

調べてみたところ、中食市場が前年比2年連続で成長しているのが確認出来た。しかし、外食産業もそこまでへこんでいるわけではない。

2011年3月は確かに震災要因でファーストフード業界の来店数は全体で前年比9割強になっていたようだが、5月にはほぼ回復している。2012年のファーストフードの動向も以下のように全体としては拡大している。

ファストフード(21業態)は3兆793億円(3.3%増)。12年は首位マクドナルドの不振からハンバーガーが低迷したが、ギョーザ、立ち食い・セルフ式そばうどん、回転ずし、ラーメン、牛丼などの業態が順調で市場は拡大した。

Logistics Todayより

そもそも3兆円の市場規模のうち、5000億円はマクドナルドが占めるので、マクドナルドの売上が大幅にヘコむとファーストフード市場がシュリンクするというニワトリ、タマゴの関係になってしまうが、それを補ってもなお他業態のチェーンが健闘していたようである。

それでは何故来店数が2011年以降減少傾向に入ったのか。仮説の域を出ないが、かなりの割合で「コーヒー」のせいだと思っている。前回の記事にて100円マックなどの低価格商品で来店を促進しているという戦略を説明した。そして、その来店促進のためのキラー商品は2008年以降プレミアムローストコーヒーに取って変わったと思われる。思い起こすと、周囲の人たちは皆、昼食時になるとコーヒーを買いにマックを訪れていた。

しかし、そんな好調ぶりを見せつけられたコンビニ各チェーンは、相次いで挽きたてコーヒーの参入を図る。コーヒーというコンテンツがいかに力を持っているかは、その後のコンビニチェーンの好調さを見て推して図るべしである。最も参入が遅かったセブンイレブンでさえ、参入から一年強で5億杯を売り上げている。各チェーンのコーヒーへの参入時期を調べてみたが、マクドナルドの来店数が減少しだした2011年と開始時期が合致する。

サークルKサンクス 2009年
ミニストップ  2010年11月
ファミリーマート 2012年9月
ローソン 2012年(推定)
セブンイレブン 2013年1月
※各公式サイトより。ローソンについては開始時期不明だが2012年時のリリースにて言及がある。

マクドナルド自体もコンビニが参入したことにより、コーヒーを無料で配布するキャンペーンなど対応策は打っていたように思うが、いかんせん追いつかなかった。利用者ニーズを考えれば、マクドナルドにコーヒーを買いにいくよりはコンビニに行く方が気安い上に、コンビニチェーンを合計した店舗数の方がマクドナルドより上なので立地の面でも不利だ。今まで100メートル歩いてマックにコーヒーを買いに行ったとしても、50メートル以内のコンビニが取扱いを始めればそちらに切り替えるだろう。

「100円マック」→「コーヒー」に続く来店促進のキラー商品の代替えが存在しなかったため、セオリーが崩れてしまったのではないだろうか。

そして、2012年は大幅に顧客単価が下落する。単価を押し上げていたのは、季節限定メニューだ。2012年を振り返るインタビューで、原田氏は以下のように答えている。(2013年時のインタビュー)

「季節限定のメニューでも、もうかるものともうからないものがある。短期間に膨大なマーケティングコストがかかる割には、売れ行きの予測が難しく、廃棄のリスクも高くなる。(中略)検証の結果、その年だけの新しいメニューはやめて、期間限定のディスカウントもやめた。そして、利益の軸足をビッグマックに移すと決めた。それが売上げを削ることになった要因だ。ビッグマックの売上げ増は時間がかかるから、1〜3付きは過渡期と見ていて、4月以降に回復が始まる。」

(マクドナルドはどこへ行く? 17万従業員の命運握る原田改革の正念場より)

「今までのやり方が正しかったのかを2012年に検証した」という前置きの後に上記のコメントが続くのだが、今までのやり方の費用対効果を検証していたということは、2011年時点で既に高単価商品が売れなくなっていた可能性が高い。そして翌年の2012年には高単価商品がいっそう売れなくなり、初の減収減益となるのだ。

実際、季節商品を振り返ると2009年のクォーターパウンダーの後は2010年ビッグアメリカン、2011年ビッグアメリカン2と前年の焼き直しになっている。そして、2012年は何だったのだろうかと公式サイトを見に行ったらビッグアメリカン再び!と、3年連続して同じようなことをやっていた。なんだか、ジリ貧になると大きなカケに出られず安全策しか取れなくなっていた昔のマクドナルドを思い起こしてしまう。

先ほどのインタビューにあったように、2013年前半は季節限定メニューを廃止してビッグマックに注力するのだが、この施策は大失敗する。来店数が大幅に落ち込み、顧客単価も低調なままだった。後に、この施策は失敗だったと、以下のように語っている。

「大きかったのは、今年(2013年)の1月、2月の既存店の売上高が、マイナス17%とマイナス12%だったことです。もちろん、マイナスになるとは思っていました。
でも正直、2桁も下がるとは誰も思っていなかった。そこで猛烈に戦略を見直してみたわけです。でも、やっぱり季節限定の乱発はやってはいけない。そこは選択と集中で、季節限定商品の数は少なくていいから、よりインパクトのある強烈なものをやらないと。
お客さんはやはり、新しい価値やサプライズを求めています。乱発抑制と新商品投入の、バランスを取ることが大事だということがわかったので、そこから猛烈に企画を立て始めて、6月からのキャンペーン(サッカーの本田圭佑選手をイメージキャラクターにした大がかりな販促戦略)に至ったわけです。」
原田泳幸 日本マクドナルドHD 会長兼社長に聞く より

しかしこの後、大幅なプロモーションも功を奏さずに来店客数は前年比割れのまま、結局通期で大幅にを売上げを落としてしまう。高価格帯の商品が売れなくなってしまった理由は何なのだろうか。それはひとえに、売れる季節商品を出せなかったことだと思う。先ほども記述したが、ビッグアメリカンという同じキャンペーンを3年も連続して行っている。みんな、メガマックやクォーターパウンダーくらいまでは記憶があると思うが、ビッグアメリカンというキャンペーンやっていた印象すらないと思う。「ちょっと食べてみたい」という興味を喚起できていないのだ。

これは外食産業市場規模のシュリンク云々ではなくて企画力とそれを実現するオペレーションが出来るかという問題だ。実際に成熟市場である牛丼チェーンのすき家も、やり方に問題があるにせよ(深夜の1人勤務など)、魅力的な新商品を投入することで成長してきた。

しかし、原田氏のインタビューを総括すると、あえて季節限定メニューを止めたと語っている。定番メニューを据えて、それを売ることがあるべき姿だという方針を示しているのだ。
2013年初頭にビッグマックを主力に据える宣言にも違和感を覚えた。消費者側の視線から見ると、ビッグマックのインパクトはメガマックやクォーターパウンダーに遥かに劣るわけで、いくらマクドナルドがビックマックを売りたくても消費者が食べてみたいと思わない限りは売れないのである。
広告宣伝費がかからず、廃棄率が予想しやすいビックマックに売れて欲しいという売り手側の都合を、消費者に押し付けているようにも見える。また、高付加価値の商品を作るために、戦略的に専用キッチンを持たない店舗を閉鎖してきた体制とも逆行するようにも見えるのだ。
しかし、マクドナルドはグローバル企業なので、これは原田氏の思惑というよりはむしろ本社の意向なのかもしれない。Appleは日本だけにカスタマイズした商品は売らない。グローバル企業は、世界向けに開発した一つの商品を、複数の国で売る。

また、2011年以降は「売り手側の都合」というワードが目に見えて出てくる。私が最初に違和感を感じたのは2011年に原田氏がカンブリア宮殿に出演した際のコメントだった。

10秒キャンペーンに続く系譜か。OTタイムとは。

2011年時はまだマクドナルドの不振は目に見えていなかったので、番組の流れはマクドナルドの再建手法を紹介したものだった。そこで一瞬「?」と感じたのがスタッフが注文を取る時間を指標とするOTタイムだ。

ベテランクルーによるトレーナーミーティングで話し合われていたのがOTタイム。クルーが一人の客の注文を取るのにかかる平均時間=オーダーテイク(OT) タイム、これが議題に。
マクドナルドでは、一人のクルーのOTタイムが計れるしくみが導入されています。このOTタイムが短くできれば、ドライブスルーでの台数が稼げ、その結果売上アップにつながります。

ミーティング終了時の店長のコメント:
〈(クルーの応対が) おっとりというか『ハーイ』みたいなとこがあるから、そこをちょっとでも『ハイ』ときっちりと区切るだけでも(OTタイムが) 早くなっていくし、それの積み重ねだと思うから。そうしたら、もっとドライブスルーの台数取れると思う。〉

くそねこ にゃんにゃん ニャンコロリンのリン  徒然猫 雑記 より

この施策は顧客というよりは、むしろマクドナルド側の都合である。昼食などの混雑時に1人でも早くさばくための指標だと思うが、この教育を徹底してしまうと、スタッフにとってはいかに早くオーダーを取るかが至上命題になりかねず、お客さんの言葉を遮ったりすることもあるのでは?という疑問を抱いた。
そして、一度不快感を感じてしまった顧客は、多分二度と店には行かないだろう。

このOTタイムは、その後の「ENJOY!60秒キャペーン」に繋がっていると思う。これは60秒以内に商品が出てこなければクーポンがもらえるという施策だったが、スタッフが急ぐあまり雑に包装されたバーガーの写真がネット上に出回ることになった。これも顧客のためというよりは、商品提供時間を短くすることによって、1人でも多くさばこうとするマクドナルド側の都合で考えられた施策であろう。

これは2007年以降目立った施策をまとめた表であるが、上が「顧客へのサービス」に分類されるもの、下が「マクドナルド内部施策」となっている。

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しかし、中間の「???」については、一見顧客への施策に見えるが、実は自社の都合だ。悪名高くなってしまった「レジメニューの撤去」導入も、高価格帯の商品が売れなくなったタイミングと呼応する。高価格帯の商品を買って欲しいがために、手元のメニューを排除して店内のディスプレイでセットメニューを選ばせようとした施策なのだと思う。そしてもちろん、客が熟考する時間が減るためOTタイムも短縮できる(はずだった)。

こういったマクドナルド側の都合による施策が積み重なり、顧客がないがしろにされた結果、少しづつ店へ行く気がなくなっていった。雑に包装されたバーガーが出てきたら嫌だとか、メニューがないから頼みづらいとか、そもそも食べてみたいと思う商品がないという理由で。これが客離れを引き起こした構造的要因ではないだろうか。
原田氏もこの失敗に気づき、顧客はサプライズを求めていると先述のインタビューでも語っている。その反省から「QUARTER POUNDER JEWELRY」と題して1000円の高級バーガーを1日限定で販売するなど、初心に帰ろうとしていたように思われる。しかし、残念ながら時間切れとなりサラ・カサノバ氏にバトンを渡すこととなった。

さて、カサノバ氏はマクドナルドを再び成長軌道に乗せることが出来るのか。次回はマクドナルドの今後について考えていきたい。

マクドナルドはなぜ減収減益に転じた?【1】〜営業利益が4倍になるまで編〜

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8年間の増収増益の後、2年連続の減収

マクドナルドがヤバいと言われ始めたのは2012年の後半だった。2004年に社長に就任した原田泳幸氏は、それから8年間もの間、増収増益を実現してきた。その間、売上高は3867億円から5350億円にまで成長し、その手腕は原田マジックと呼ばれ賞賛されたが2012年に初めて減収減益に転じる。翌2013年には60秒以内に商品が出てこなければクーポンがもらえる「enjoy60秒キャンペーン」でネット上で叩かれ、ことあるごとに施策が槍玉に上がるようになった。そして、2013年はさらに減収減益となり、営業利益は前年より5割も減少してしまう。原田泳幸社長は事実上解任され、サラ・カサノバ氏が就任した。

こうなった理由を分析している記事や社説が無数にあるが、それぞれ短いタームで見ているため、季節要因であったり、財務上の問題や細かいマーケティングの戦略ミスに要因を求めている物が多い。マクドナルドの歴史を今一度振り返っておくことにより、もっと構造的な問題が見えてくるように思い、3回に分けてその経緯をたどってみることにした。初回は、原田社長就任後、どのようにマクドナルドが成長軌道に乗ったのかを振り返る。

2年連続の赤字を救った救世主

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マクドナルド決算短信より作成

まずは2001年から2013年までの売上げ高と営業利益をグラフにしてみた。1990年代、デフレ時代の勝ち組と呼ばれ拡大路線を続けてきたマクドナルドは2000年代に入り売上げが不調となる。2002年には営業利益ベースでは利益が出ているが最終的には赤字に転じ、翌2003年も赤字となった。

しかし、2004年に原田社長が就任すると売上げは急激に回復し、営業利益も年々増えている。2008年以降の売上げがガクンと減っているのは、マクドナルドが店舗のフランチャイズ化を押し進めたため、フランチャイズ化された店舗自体の売上げが含まれておらず、代わりにフランチャイズによる手数料が計上されているためである。実際全店舗の売上げ高を見ると年間5000億円を超えており、2010年には過去最高となる5400億円を突破。外食チェーンで5000億円の売上げを初めて突破するという快挙を成し遂げた。

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マクドナルドHPより引用

フランチャイズの促進は経営のスリム化が目的であったが、実際冒頭のグラフを見ると本業の儲けを示す営業利益は2011年まで増えている。原田社長就任時の2004年の営業利益は約72億4000万に対して2011年は281億8000万となっており、8年で利益を約4倍にも押し上げているのだ。

改めて見るとものすごい実績だが、それではこの8年間の間にどういう施策が取られたのだろうか。

最初にしたのは、ハンバーガーを美味しくすることだった

原田社長就任直前の状況を振り返ると、以下に集約されると思う。
  • 安売りが浸透しすぎて、低価格が当たり前となり、来店数が伸びなくなっていた
  • まずい
  • 不採算店が大量にあり、オペレーションがバラバラだった
低価格路線による失敗はよく語られているところで、平日半額キャンペーンを実施し、ハンバーガーが65円で売られていた。これが常態化すると65円という価格が普通になり、それを魅力に感じて店舗に行こうとする人が減ってしまう。

しかし、一番の問題はハンバーガーがまずいことだ。この「まずい」と「不採算店が大量にあり、オペレーションがバラバラ」という問題は表裏一体になっていた。当時、マクドナルドのハンバーガーは作り置きのものをレンジでチンして販売していた。出来立てを提供するという一連のオペレーションが確立されておらず、店舗によってバラバラだったのである。オペレーションがバラバラだけならまだしも、勝手にショートケーキやおにぎりを売っていた店舗も存在していたと後に原田氏は語っている。社長に就任した後、新製品を試食した時に次のように感じたそうだ。

「たとえば、私の入社前から開発していた新製品を食べてみたら、どんでもなくまずい。それは、トマトを挟んだバーガーで、電子レンジで温めるものでした。」
(マクドナルドはどこへ行く? 17万従業員の命運握る原田改革の正念場より)

まずは「ハンバーガーを美味しくする」ことが至上命題となる。今聞くとものすごく当たり前の話に聞こえるが、当時ものすごく頭の良い人たちが経営に参画していただろうに、その基本原理に立ち返る人は、原田社長が来るまで誰もいなかったのである。続いて原田社長はこう振り返っている。

「これ、自分の家で作るならおいしくできるよね?店でも同じようにおいしくするには、どうすればいいの?」と社員に聞いてみたんです。
その社員は「注文を受けてから作り始めるメイド・フォー・ユーというシステムがある。その仕組みで作れば、おいしくできるはず」と答えてきましたが、「ただし、世界中で全店導入したところはなく、米国でも少しずつやり始めている段階」とも言う。だったらやろうじゃないか、と。キッチンを全部入れ替えようと、私はすぐに指示しました。

(マクドナルドはどこへ行く? 17万従業員の命運握る原田改革の正念場より)

このメイド・フォー・ユーこそマクドナルドの増収増益を支えてきた根っこになる方針である。何を最初にただすべきか(まずいハンバーガーを美味しく)→何をすれば良いか(メイド・フォー・ユー導入)というシンプルな方程式の元、就任1年でほぼ全店でこの仕組みが実現したという。しかし、言うがやすしで、原田社長が方針を提示した後は社内の反発にあったという。

「ところが、トップマネジメントたちは皆反対。「あそこが問題です」「あれが課題です」と理由を並べてくる。どうすればその課題を乗り越えられるか、発想がまるで出てこなかったのです。(中略)
でも私は「世界でいちばん優秀なやとわれ社長」という自負を持っているから、反対する社員にも情熱を持ってやろうと訴えた。そうすればほとんどの人がついてきてくれるんです。課題を乗り越えることが仕事なんだから、と言い続けたら、後ろ向きの声はなくなってきました。」

(マクドナルドはどこへ行く? 17万従業員の命運握る原田改革の正念場より)

美味しくなった後に、低価格商品でお客を取り戻す

ハンバーガーが美味しくなった後、2005年に100円マックを投入する。「低価格路線で失敗したんじゃないの?」というツッコミが入りそう(実際、そのような質問を記者からされている)だが、これは一度離れてしまったお客さんにもう一度マクドナルドに来てもらうための施策だったという。つまり、【安かろう悪かろう】という印象がついてしまったマクドナルドを【安い割に美味しい】と感じてもらうための100円マックだったのだ。「価格を超えた満足感を提供する」ということは、常に原田社長が言っていることで2011年にカンブリア宮殿に出演した際も「やっていることは、Apple時代と変わらない。常に顧客の想像を超えていくこと」という発言をしている。

100円マックでお客を呼び戻した後、付加価値の高いメニューを投入することによって客単価を向上させている。そのきっかけとなった商品が2005年に発売されて大ヒットとなった「えびフィレオ」だ。(ちなみに「えびフィレオ」販売時も、メイド・フォー・ユー導入時と同様にリスクが高いという社内の大反対があった。)
こうして一気に増収増益の体制へと転じるのだが、この後の戦略も基本的にこれの反復になっている。

低価格商品(価格以上の魅力)投入で来店促進→高付加価値のメニューで単価向上

2008年にはプレミアムローストコーヒーが導入され、来店促進の大きな呼び水となる。一方の高付加価値のメニューもメガメニューの火付け役となった「メガマック」や2009年に日本発情率した「クォーターパウンダー」など、続々とヒット商品が続く。
きれいに弧を描くような美しい戦略だ。しかし、実はこれは計算し尽くされたわけではなく、偶然の産物だったという。

「今だから話せますが、100円マックを始めた頃は、そんなフェーズ1・2・3なんて戦略を詳細にはつくっていませんでした。客数は上がるが、絶対客単価が落ちるので、なんとか少しずつ収益を戻すということを段階的にせざるを得ないなと思ったぐらいです。具体的に何をいつ発売するかは決まっていなかったのです。戦略がないと言ったら、それこそ記者から叩かれますからね。」

原田泳幸の実践経営論「大きく、しぶとく、考え抜く。」より

ちなみに、えびフィレオを手がけたのも現CEOのカサノバ氏だそうで、これが偶然大ヒットしたため、高付加価値のメニューを連続して投入するという戦略が編み出されたのではないだろうか。
しかし、いずれにしろこの戦略の成功は「メイド・フォー・ユー」があることが前提であり、この仕組みが導入されていなければ「えびフィレオ」はヒットしていなかったかもしれない。就任直後に最も根幹となる方針を打ち出したからこその、偶然と言える。

ということで、2010年まではこの戦略の車輪が非常にスームズにまわり、増収増益を続けていた。そこから減収減益となった2013年までにいったい何が起こったのだろうか。次回はその点について振り返ってみたい

電子書籍の台頭でリアル店舗が抱える問題

amazon

書店は生まれ変わるべきか

前回、ネット上の言論ってすわりの良いものが多いのではという話題で、電子書籍の台頭で、以下の論旨をよく耳にするという話を書きました

「電子書籍が普及するゆえ、既存書店は生まれ変わる必要がある」という論法では、しばしば「リアル店舗の強みを活かして、顧客へおすすめの本を進めるなど、売り方を変える必要がある」

で、実際に店舗に行ってみると、なんだかそれって現状を捉えてないというか現場が見えてない気がします。

実際に書店に行って感じるのは以下の点です。

1.店員があまりいないので、本を探すのにレジまで行く必要がある
2.店員さんもパソコンを使って検索するが、それでも探しきれない時がけっこうある
3.在庫量がamazonにはかなわない
4.取り寄せしても、再び書店に行かないといけないのが面倒くさい

ということで、本を指名買いするにはネットよりも不便なのですね。じゃあ、やっぱり「顧客へおすすめの本を進めるなど、売り方を変える必要が〜」ってなりそうですが、この現実を見るとそれも難しいわけです。

そもそも店員さんがあんまりつかまらない。聞けないんですね。しかもネットよりもリアルが優位に立てるのは
「TOEIC受けるんだけど、内容を網羅した参考書が欲しい」とか
「歴史を分かりやすく説明した漫画」とか
「宮部みゆきが好きな人が好きそうなミステリー」とか
抽象的な内容を求めている時です。こういうことが分かる書店員がいたらかなり良さそうですが、困ったことに本の価格って安くて一定なのです。こういう知識を持った書店員の育成や採用を組織的に行うとかなり経費がかかりそうですが、経費がかかる割にamazonで買っても書店で買っても同じ値段なのですね。

提案型の売り場は、局地戦?

それでは、売り場を提案型の売り場にしたらどうか?というコンセプト売りについてはどうでしょうか。既に多くの店舗は○○フェアなどと売り場の前面をコンセプチュアルにしていますが、それでもだいたい何処に行っても並んでいる本は同じです。奥の売り場も出版社、作家名順で並んでいるので在庫量勝負になってしまいます。

ただ、これも本流ではなくて局地戦的な戦い方なのですね。欲しい本を出来るだけ早く届けるという本流の商売はamazonに譲った上で腹をくくる必要があります。実際問題、大型の書店も、人がたくさんいるオフィス街やショッピングモールを中心に出店しているので、書店に本を指名買いしに来る人が一定量いるわけです。そういう総合書店の店舗へ注力するパワーを、コンセプト売りの店舗開発に注ぐ必要があります。
実際コンセプト売りで有名なのは、ヴィレッジヴァンガードです。ここは現場の書店員の裁量が大きく、売り場の作り方の権限をかなり委譲しているようです。決算資料を見ると年間の売上高が約430億円ですがここ5年間の売り上げ推移を見ると横ばい傾向のようです。つまり、大型の書店チェーンにとって、リアル店舗でコンセプト売りをする限りは既存の売上げをそのまま保てないことを覚悟するしかないのです。

ということでまとめると・・・
・既存店舗が生き残るには、リアルの強みを活かした提案型の店舗が必要
→ネットでは検索できない大きなテーマ(ただし、書店員の育成にコストがかかる)
→売り場をコンセプチュアルに
・ただし、局地戦になるため既存大型店舗のような売り上げは確保できない

ということになります。ネットで流通している「これからの○○は、○○すべきだ」論法の背景をきちんと読み解くと、シビアな現実が浮かび上がってくるのです。

そういえば、文化祭がしたかった

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脱出ゲームは、部活の需要と一緒

どこかに閉じ込められるというシチュエーションで謎を解いて脱出するゲーム、通称「脱出ゲーム」がすごく流行っています。先日インタビューで、「脱出ゲームの達成感は部活と同じ」という発言があって、ああなるほどなあと思いました。

部活って、チームを組んで、得も言われぬ熱さで動けるじゃないですか。合唱コンクールや文化祭も、理屈なく、みんなでひとつのものを作り上げるという根源的な熱で動けましたよね。そういった姿勢で大人たちが取り組める場所が今、無いからだと思います。

学生時代は文化祭という催しで、仲間たちと何かのプロジェクトをやり遂げたり、物を作り上げるという純粋な創作行為を集団で行うきっかけがあったのですね。
しかし、社会人になってみると、金銭的インセンティブが働くので利害関係ばかりになったりします。利害関係なく、純粋に仲間たちと一つのことに取り組むというのは、純粋に楽しいんですよね。

文化祭の最も優れた点

文化祭の最もすばらしいところは、やる気のない人たちを排除出来るという点です。文化祭には金銭的インセンティブがないので、「そんなのかったりーよー」とか言っている人たちには自動的に退出頂いて、やる気のある有志だけで行えば良いのです。

そうすると自動的に意欲の高いメンバーが残るので、素晴らしい取り組みになります。誰も「この作業は、私の業務に含まれますか?」なんて言いません。だって、全員の目指すゴールはプロジェクトの完遂ですから、ゴールするためには、皆がなんだってやるのです。

翻って考えると、会社でプロジェクトを遂行する上で困るのは、やる気のない人たちを排除できない点です。やる気のない人たちが、金銭的インセンティブに動かされて嫌々やっているケースが多々あります。お金が絡むと、やりたくなくても、プロジェクトメンバーから退出してくれません。

持論ですが、だいたい学生の時に文化祭に真面目に取り組まない人は、社会人になっても金銭的インセンティブを最優先にするケースが多いです。なまじっかこのタイプが管理職にいたりすると、何かをやり遂げるというよりは失点(インセンティブが減ること)を恐れる人が多いので、保守的になって新しいことに挑戦しなくなります。仕事の仕方を見てると「多分この人、文化祭に参加しなかったタイプだな」と思うことが多々あります。
このへんは、お金が絡むと楽しさが失われるというソーヤ効果も関係しているのかもしれません。

ということで、最も理想とするプロジェクトの形は文化祭です。やる気のない人はさっさと帰ってね、というスタイルの方が新規事業においては確実に良いモノが出来ると思うのですが。ああ、文化祭やりたいなぁ。

政治をしないで目的を達成するには

転職前回のエントリで、一見クリエイティブな仕事をしている人も政治をしてるよねという話題を書いたのですが、それでも政治なんて出来るだけしたくないわけです。

じゃあ、政治をしたくない、もしくは出来ない人はどういう組織で、どういうコミュニケーションをしていったら良いのか。これには二通りあると思います。(主体的にやりたいことがある人の場合という前提です。)

自分の城を築く

前回のエントリに登場した「押井守監督の「勝つために見る映画」という連載に、押井監督がジョージ・ルーカスに会いたいと言われて訪ねていくエピソードがあります。

ルーカスさんはどこにいるんですか。
押井:ルーカスは、その広大なスタジオの中の秘密の小部屋に稀に滞在してるんだそうです。屋根裏部屋みたいな場所。そこに行く道筋は外からはまったく分からない。忍者屋敷みたいに壁の一部が突然ゴーンと開いて、そこにエレベーターのトビラが出現して、そこからしか入れないんです。

それを知っているということは、ルーカスに会ったんですね。

押井:以前、僕がスカイウォーカーランチで「イノセンス」という映画のダビングをしてたときに「ルーカスがあなたに会ってもいいと言ってる。ただしあなた以外来ちゃダメ」って言われて会いに行ったんです。その秘密の扉を開けて、彼の直属スタッフ、親衛隊が仕事をしている部屋の横を抜けて、もう「謁見」って感じなんですよ。

実際会話をしてみても、あまり話が弾まなかったようでルーカスさんはあまりコミュニケーションがうまくない。つまり、コミュニケーションが上手く取れず、政治的な動きが取れない人はこのように自分の城を築いちゃうというのも一つのコミュニケーション術なのだと思います。これは押井監督の著書コミュニケーションは、要らない (幻冬舎新書)でもそう言及されています。

でも、お気づきの通り大変な天才でなければそんなことは出来ません。日本でいうと自分のスタジオを作ってしまった宮崎駿などごく一部の天才しか出来ないのです。じゃあ、常人はどうすれば良いのでしょうか。

仲間たちと、小額のコストでプロジェクトを立ち上げる

今まで挙げたケース、押井監督、ジョージ・ルーカス、宮崎駿のプロジェクトには、全て共通点があります。全て予算が巨額なのです。大きなお金が動くということは、それだけ政治が絡むことが必須になり、押井監督は他人のお金で作品を作っている以上政治をしているわけで、ルーカスさんと宮崎駿監督は、政治をしなくて良いように自分の城を作ったのです。

つまり、政治をしなくて良い組織に属するには、巨額のお金が動かないところに身をおくのが一つの手です。特にホリエモンもよく言っていることですがサーバー費用などITにおけるコストが劇的に下がっているので、仲間を集めればあとは数万円の費用でサービスを作れたりします。

仲間。。そう、仲間を作る作業をしなければならないわけです。これが一番大変だし、この時点で成否が9割以上決まっているのです。極論を言えば一人でやっても良いのですが、一人のスキルでカバーできる領域は限られています。仲間を作るためにはどうしたら良いか、先日書店で見つけた君に友だちはいらない という本がとても参考になります。
エンジェル投資家の著者の主張にはかなり頷けます。特に共感したのが、FacebookとTwitter上の知り合いなんて役に立たないということです。

真の仲間とは、一緒に何らかの状況をくぐり抜けてその人の本質が分かっている人物です。私も常日頃思うのですが、人の本性は仕事をして初めて分かると思います。普通につきあっている分には良い人なのに、仕事になると全くちゃんとやってくれない人っていますよね。人の本性というものは、FacebookやTwitter上だけでは分からないのです。

同じ職場や学校で何らかのプロジェクトを体験した仲間がベストですが、社会に出てから仲間を探すのであれば、一緒に何らか小さな仕事をしてみて、その人の本質を見る必要があります。

ということで、組織上の政治が嫌な人は自分が一緒にやりたいと思う仲間を手をかけて探さなければならないのですよね。
このエントリに登場した書籍は非常に参考になるのでぜひ。



クリエイティブな人も、政治している

転職

押井守監督の勝敗論

前回のエントリは、組織内で最も実用性のある能力とは、政治力を身につけるなんじゃという話題でした。でも「政治なんかやりたくないやい!」という人もたくさんいると思うんですよね。なにを隠そう私もそうです。

しかし、企業の中にいる限りは政治というのは避けて通れない問題です。一見めちゃくちゃクリエイティブなことをしている人だって政治をしています。「攻殻機動隊」シリーズ等で有名な押井守監督も「押井守監督の「勝つために見る映画」という連載を昨年までしており、古今東西の映画を紹介しながら、組織論や勝敗論を解説しています。
この連載から引用した以下コメントを見ても、押井監督って組織のことがよく分かってるんだなぁと思います。

押井:そう考えると、今の日本の企業なんて、みんな中間管理職が支えてるんだよ。上にはコロコロ変わる経営陣がいて、下には使えないダメな社員たちの大群がいて、誰がこの会社を守るんだって(笑)。部長とか課長が頑張ってるんだよ。出版社で言ったら編集長は基本的にはお飾りで、実際には副編が踏ん張ってるんじゃないかな。編集長は責任を取るためにいるだけで。

ゴールにたどりつけば、騙したことにならない

巨額のお金を動かして映画を作るには、たくさんの政治が必要なのですね。出資元やプロデューサーやらいろんな人たちが口を出してくる。その中でいかに人を動かして作品を守るか。更に以下のコメントからも、押井監督の政治的手腕が伝わってきます。人は正論では動かない。だから、あえて聞かれてないことは答えない、ある意味で、まわりを騙すことが必要だと言います。

僕らで言うならひとつの映画、会社で言うならひとつのプロジェクトを請け負って、部下を動かさなきゃいけない。だいたい部下というのはどうしようもない連中ばっかりで、文句言うだけの奴とか不満分子とか自分だけ楽しようとする奴とかそういうのばっかりなんだけど、でもそいつらがいないと仕事ができない。どんな戦争も兵隊なしでは戦えないんです。

「どうやってこいつを動かそうか」って言うときには、希望を与えなきゃダメなんです。何かを保証してあげなきゃいけない。でもその希望には何の根拠もない、そのときあなたはどうする? っていうさ。

相手に正論を振りかざすよりも、政治的手腕を駆使してゴール地点にたどり着く。ゴール地点にたどり着ければ、嘘は嘘ではなくなり、騙していないことになる。

逆に言えば、正直にお答えして玉砕することが目的じゃないんですよ。言わなくていいことまで言って轟沈したいのか。敢えて黙っているのはその時点では詐欺みたいなもんだけど、映画が完成してみたら、時間が経ってみたら騙してなかった、というふうに努力するべきなんです。

そして、それをこそ「勝負」と言うんです。真っ向から激突してノックアウトされるのは、勝負とは言わない。日本人はそういうの好きだけど。「負けるとわかってる勝負でも、男は立たねばならぬ」とか言ってるからダメなんだって!

勝つためには宮本武蔵みたいに大遅刻して心理戦をやってもいいし、全員を騙してもいい。監督は自分のスタッフとも戦うし、何よりも「自分の雇い主とも戦う」んだよ。

ということで、押井監督はクリエイティブでありながら同時に組織の指揮官なのだと思うんですね。このように一見クリエイティブに見える仕事も実際は組織論や勝敗論が重要になってくるのです。次回のエントリでは、それでも、そういった組織から離れて個人で好きなようにやることは可能なのかを考えてみたいと思います。

「効率的に会議を進める○の法則」以上に大事なこと

騒音実際に使ったことある?

よくツイッターとかでこういう「○の法則」的な記事が回ってきます。そういう記事にいいね!したり、「良記事。納得した」とかツイートしているあなた、心に問いかけてみてください。それを、実践したことありますか?多分したことのない人の方が、大多数なのです。なぜか。

「効率的に会議を進める○の法則」が有効に働くのは、会議のファシリテーター(司会者)だからです。会議の効率的な進め方は、語り尽くされているので、こういう記事を読んでいる人であれば、会議そのものよりも事前の準備が大事であることは分かると思います。でも、実際に事前に資料を配布して皆に見てもらい、会議自体を意思決定の場に変えるのはファシリテーター(司会者)じゃないと出来ないのです。

「プロジェクトを円滑に進める○の方法」というのも同じことで、プロジェクトリーダーが読まないと意味がないのです。そもそも動かしたり進めたりする権限がないのですから。

最も大事なのは、泥臭い政治力

というわけで最近思うのが、物事をちゃんと進めたり、効率的に進行させるハウツーよりも、大事なやつがあるんですね、たぶん。
それが政治力というやつです。
むしろハウツーがあったとしても、政治力がないとなんともならない。ガソリンの入ってないエンジン、電池のキレたロボットと同じなのです。実行出来ないのですから。

なので、「権限を持ってない現場の人間が、いかに上の機嫌を損なうことなく進言するか」とか「ダラダラ会議をやりたがる責任者をうまい具合に丸める」とか、いかにも泥臭い政治を身につけないといけないわけです。

もう、書いてるだけでめんどくさいなぁと思ってしまうのですが。

しかし、人が集まる以上は、政治は必ず起きるものです。最近ライフネット生命の出口社長の組織論をネットなどで拝見し、感銘を受けていたのですが、出口さんは生粋の読書家として知られており、特に古典を読むことを奨められております。中国の古典で、泥臭い上司との関係を描いた「宋名臣言行録」という古典があると紹介されていたので読んでみたのですが、これが実に生々しい。

ということで、なんとかハックとかそういうハウツーを学ぶ前に、中国の古典で人間関係の泥臭さを学ぶのが先なんじゃと思うのでした。

ちなみに、組織論の究極的な目的は、現場の人間にこういうめんどくさい政治をさせないことな気がします。
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